民泊新法の施行後、民泊施設はどう変わったか

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不動産投資の新しい形として注目を浴びた民泊施設の運営。日本への外国人観光客の増加により、インバウンド需要がここ数年で著しく上昇しています。そして、需要を受けて各地に民泊施設ができたのは3~4年前になります。

しかし、違法民泊施設の増加によって周辺の住人とのトラブルが多発しました。

その結果、2018年6月からいわゆる「民泊新法」が施行されるようになったのです。

民泊新法では宿泊施設であることの外国人や周囲への告知義務、また、年間の営業日を180日に限定することなどが定められ、新法への改正後は民泊施設の営業が日本全国で可能になりました。

民泊新法の施行は民泊施設の運営にどのように変化をもたらしたのでしょうか。その現状を探ってみます。

1.民泊施設が増加しているのは都心や観光地中心。地方には波及せず

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民泊新法が施行されたのは2018年6月ですから、すでに1年3ヶ月が経過しました。2018年6月以降に民泊施設がどれぐらい増えたのか、都道府県別のデータを引用します。

自治体 届け出件数 廃止件数 届出住宅数
東京23区 5,735 326 5,409
大阪市 2,652 209 2,443
札幌市 2,045 190 1,855
福岡県 954 63 891
沖縄県 859 49 810
京都市 582 14 568
北海道 485 23 462
千葉県 356 4 352
岐阜県 104 2 102

出典:https://www.sbbit.jp/article/cont1/36716

このデータを見ると、届出の数が増えているのは圧倒的に東京23区内です。次いで大阪市、札幌市となっています。

この結果を見ると、観光事業の旺盛な東京や大阪、北海道や福岡、沖縄などが圧倒的に増加しています。東京に隣接している神奈川県ですが、意外なことにランクインすらしていません。

民泊新法の目玉の一つは、日本全国での民泊施設の営業が可能になることでした。

しかしこの結果を見る限りでは、民泊施設は地方にそれほど普及していないようです。

岐阜県には合掌造りで有名な白川郷があり、海外からの観光客も多くなっています。

しかし、外国からの観光客が見込める観光地のないエリアでは、届出件数は10件程度です。また、民泊施設は民泊新法上では180日しか営業できません。そのため、可能な限り一部屋当たりの宿泊人数と単価を上げなければ、利益の確保が難しくなっています。

高い宿泊費を設定できる都心以外での民泊施設の運営が困難であることを如実に語る結果となっています。

2.横浜市がIR施設の勧誘を認めたことで、横浜周辺での需要の増加が見込まれる

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先のデータを見ると、神奈川県の民泊施設の数は千葉県以下と少ないことが分かりました。東京に隣接している千葉・埼玉・神奈川の中でも千葉県には東京ディズニーランド目当ての海外からの観光客が多く、民泊施設の需要はあると考えられます。

神奈川県内には横浜や鎌倉のような観光地は数多くありますが、それでも民泊施設の増加に繋がっていません。神奈川県内では、民泊施設の運営は難しいと考えられそうです。

しかし、その風潮に一石を投じる発表が先日行われました。横浜市長がIR施設の誘致に乗り出すことを表明したのです。

IR施設はカジノなど中心とした一大レジャースポットであり、ターゲットは日本人ではなく観光客です。

いっぽうでギャンブル性の高いレジャーであることから、周辺の治安の悪化などを懸念する住民の声も上がっています。

日本全国の自治体でもIR施設の誘致に関しては、慎重論が主流です。

すでに大阪ではIR施設を湾岸エリアに誘致することを決定しましたが、他にも沖縄や北海道、千葉なども検討しています。

横浜市でも空港へのアクセスの良さや湾岸エリアがあることなどから、IR施設の誘致が議論されていましたが、やはり慎重論が主流でした。

しかし、2019年に横浜市長が明確に誘致の意思を公表した結果、横浜ベイエリアなどにIR施設を開設する見込みが非常に高くなりました。

IR施設の開業は外国人観光客を誘致する目玉になります。周辺には外国人観光客があふれ、宿泊先の施設が必要になるでしょう。

宿泊施設がホテルだけでは足りない場合、民泊施設の出番が回ってきます。横浜市内や隣接する川崎市、大田区などで民泊施設の需要がさらに増える可能性が上がっています。

3.大東建託が大阪限定の民泊施設の建築と借上げをセットにした商品を販売開始

IR施設の管理に関して横浜市よりも先に名乗りを上げていたのが大阪市です。大阪はもともと民泊特区に指定されていたこともあり、民泊施設の営業が盛んでした。

先に挙げた届出件数でも東京に次いで2位ですので、名古屋を圧倒して上回る規模を有しています。

大阪府内の民泊特区エリアに限定する形で、大手不動産デベロッパー会社の大東建託が以下のような商品を発表しました。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000035668.html

以下、一部を引用します。

>大東建託株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:小林克満)は、2019年8月より、大阪市の特区民泊エリア限定で、民泊事業の高い収益性と賃貸事業の長期にわたる安定性をあわせ持つ、「民泊活用型一括借上システム」の提供を開始しました。

本システムは、当社が設計・施工した賃貸住宅を活用し、当初※1は民泊事業を行い、その後は賃貸事業を行うことができ、賃貸事業中は大東建託グループが、建物を一括で借り上げます。なお、本システムの対象エリアは、特区民泊の中でも確実な集客が見込まれる、JR大阪環状線内の駅から徒歩10分程度のエリアで、2020年度までに年間30棟の販売を目指します。

■大阪の中心部の特性を活かした民泊→賃貸というスキーム

大阪市の中心部は旅行客の宿泊地として人気の高いエリアです。当初の民泊事業では通常の賃貸事業よりも高い収益が見込めます。「民泊事業」の運営によって多くの収益を確保しつつ、その後は市場のニーズや環境の変化などに対応することになります。そして、「賃貸事業」に切り替えることを選択肢に入れながら、施設のオーナーに収益性と安定性をあわせ持つ長期的な土地活用を提案します。

最初は収益性の高い民泊物件を運営し、その後は賃貸事業に切り替えることが可能なプランになっています。収益性の高い民泊事業で利益を確保した後は、賃貸事業に業態を変更して安定した収益を投資家に提供することを目指しています。

賃貸事業に模様替えした場合、借上げで家賃の保証まで行なうシステムを組んでいます。

建築が可能であるエリアは大阪環状線内の駅から徒歩10分程度と、かなり限定された場所です。建築費の一切を含めた購入価格は1億円を上回ると言われています。

大阪でこのような商品が販売されれば、同じようにIR施設の運営を行うであろう横浜でも同様の投資商品が販売される可能性が上がります。

年々増加する海外からの観光客。2020年に東京オリンピックを控え、観客の動員数は4,000万人を突破すると国は推測しています。

オリンピック開催の影響を受け、現在の観光業界は右肩上がりの状態が続いています。しかしオリンピック・ブームが一段落すれば、エリア次第で落込みを見せる可能性はゼロではありません。

収益が安定し続けるかどうかの見定めは難しいでしょう。

また、不動産物件の建築と借上げをセットにした商品は、サブリース物件の問題を引き起こした同様のスキームで構成されていることから、デベロッパーと投資家のトラブルを招くおそれがあります。

土地代や建築費は適正な額なのか、家賃はどの程度見直されるのか、投資家はよりシビアに内容や条件を見極めていく必要があるでしょう。

いずれにせよ民泊新法の施行後も特には何も変わらず、東京や大阪などの主要なエリアが依然として中心であり続けるでしょう。しかし、今後はIR施設の開業によって神奈川県が肩を並べる可能性は高いと見られます。

民泊施設を運営するのであれば、エリアの選定が肝心です。ただし、地方で民泊施設の運営が可能になったからといって、必ずしも需要が生まれるとは限らないことにご注意ください。

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